名古屋高等裁判所 昭和24年(控)849号 判決 1949年12月19日
被告人
鈴木信義
主文
本件控訴を棄却する。
理由
弁護人竹下傳吉提出の趣意は後記の通りであつてこれに対し檢察官は本件控訴は理由のないものとしてその棄却を求めた。
控訴趣意第一点及び第二点について
原判決によれば原審はその挙示の証拠によつて被告人が他人と共謀の上前後十一回に亘つて窃盜を行つた事実を認定しこれに夫々刑法第二百三十五條第六十條を適用したことが明である。
而して右の証拠によれば被告人が本件の窃盜ついて直接その実行行爲自体を分担していないこと及び賍物に関する罪は窃盜の犯意がない場合であつて窃盜罪とは独立の犯罪であり又賍物に関する罪を犯してもそれは窃盜罪自体若くはその幇助罪でないということは正に論旨の通りである然しながら数人共同の窃盜罪が成立する場合においては必ずしもその数人全部が直接その実行行爲をなす必要はないのであつてその数人各自が窃盜の意思を以て窃盜を共謀しその中の一部の者がその実行行爲を分担しその他のものが夫々その見張とか賍物運搬とかその他の行爲を分担した場合はその実行行爲を分担していない者も結局その実行行爲者を通して自己の窃盜の犯意を実現したものであるからその窃盜は全部のものの共同正犯と解すべきものであつてその場合その実行行爲を分担していないものの立場は外観的には窃盜幇助乃至賍物に関する犯行と一見区別し難いのであるがその犯意において明かに区別されるのである更にその窃盜の共謀ありとするについては具体的に何時如何なる場所において何人の如何なる物を窃取する等の詳細な打ち合せは必要がないのであつて苟くも窃盜をなすべき謀議に参劃した以上実行行爲を分担せぬ者がその実行行爲者の具体的行動を知悉していなかつたとしてもその窃盜の共同正犯者としての責任を免れることはできない而して原審挙示の証拠によれば被告人は自己の窃盜の犯意を遂行する企図を以て本件窃盜の謀議に参劃したものであり従つて被告人はその実行行爲を分担しなかつたとはいえ或いはその実行者のために見張に従事したり或いは現場から相当離れた場所ではあるがそこに待機して賍物運搬に従事したものであつてその窃盜の共同正犯者としての條件を具備していることが明かであり單に賍物運搬や窃盜幇助を以て目すべき関係ではないのである論旨の窃盜の共同正犯なりというには共犯者各自が必ずその実行行爲に関与することを要するとするのは独自の見解であつて当裁判所の採用し難いところであり又論旨の山本房義に対する責任の形式や内容は被告人のそれに何等影響のないところである。
従つて原審が被告人の行爲を以て窃盜の共同正犯となしこれに刑法第二百三十五條第六十條を適用したのは正当であつてその措置には何等事実誤認及び法令適用の誤は存しないといわなければならない。